2012年8月6日

ACTA - EUが否決した“模倣品・海賊版防止条約"とは何なのか

NHK総合はすっかりロンドン・オリンピック専門チャンネルになったようですね。
以前もこんな感じでしたっけ?もっとBSへの比重が高かったと思うんですけどね。
地デジ化に伴いテレビを買い替え、BSデジタルを視聴できる人も多いと思うのですが、NHK-BS1の2波(BS101とBS102)じゃ駄目なんでしょうかね。

そんな日常の中で(ほとんど報じられていない)ACTAの話を。

Wikipedia

ACTAの条文の「日本語仮訳」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ipr/pdfs/acta1105_jp.pdf


前文
第1章 冒頭の規定及び一般的定義
第1節 冒頭の規定(第1~4条)
第2節 一般的定義(第5条)
第2章 知的財産権に関する執行のための法的枠組み
第1節 一般的義務(第6条)
第2節 民事上の執行(第7~12条)
第3節 国境措置(第13~22条)
第4節 刑事上の執行(第23~26条)
第5節 デジタル環境における知的財産権に関する執行(第27条)
第3章 執行実務(第28~32条)
第4章 国際協力(第33~35条)
第5章 制度上の措置(第36~38条)
第6章 最終規定(第39~45条)
※協定の正文は「英語」、「フランス語」、「スペイン語」のみです。

推進側の解説はこちら。(2011年のもの)
独立行政法人工業所有権情報・研修館
模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)
http://www.inpit.go.jp/content/100126271.pdf

ACTAの意義
  1. 知的財産権分野における新たな枠組みの京成
  2. 知的財産権のエンフォースメントについてのTRIPS協定の補完・強化
「エンフォースメント」は、日本法の文脈における「執行」より広義の概念として使用されるものと思われるが(例えば、ACTAに規定される内容は、司法機関の判断を実現するものではない)

EUでは反対の声が上がっていますが、日本が主導しているという割には扱いが小さいように思います。(秘密のまんま批准したいんでしょうかね)

2012年7月5日
CNET - 欧州議会、「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」を否決

欧州議会は現地時間7月4日、反対多数で模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:ACTA)を否決した。
 2012年に入り、ACTAに反対する抗議活動が、欧州の街角や議会周辺でわき起こっていた。
 初期の交渉過程の一時点では、ACTAは特に不法なファイル共有をターゲットとしていて、SOPAに見られるような広範なウェブサイトブロッキングシステムの実装を含んでいた。
 ACTAに関するこのような論点は、結局のところ条約の最終条文から削除された。

CNET JapanでACTAの記事を検索してみたら一番古いものがこれ。

CNET 米政府、知的財産権に関する多国間条約案の概要を公開 2009/04/08 18:13
http://japan.cnet.com/news/biz/20391303/
 同概要に記載されている、ACTAに盛り込まれる可能性のある章を以下に列挙する。
  •  デジタル環境における知的財産権の行使:関係各国は、「インターネット上における著作権および関連する権利に対する海賊行為を阻止する上で、ISPが担う役割と責任」を明確化するための章をACTAに盛り込む意向だ。
  •  民事上の行使:この章には、知的財産の侵害による損害の決定方法、当事者に侵害行為を止めさせるための差し止め命令を下す司法当局、偽造品を破壊するためのプロセスが盛り込まれる予定だ。
  •  国境措置:この章では、第1に国境措置を輸入品にのみ適用すべきか、あるいは輸出品にも適用し、旅行者に私的使用目的での知的財産の持ち出しを許可すべきか、第2に知的財産権者が税関当局に国境で知的財産侵害が疑われる物品の差し止めを要請する際の手続き、第3に当局がこのような差し止めを自主的に行う権限について定める予定だ。
  •  刑事上の行使:この章では特に、刑事制裁にふさわしいかを決定する上で必要な侵害の規模、刑事罰の範囲(特にビデオに動画を録画する場合や偽造ラベルの不正取引の場合)、関係当局が自主的に侵害者を取り締まれる場合を明確化し、さらに当局に対し、知的財産権の侵害が疑われる物品または侵害行為によって得られた財産の捜索または没収を義務付ける予定だ。
  •  国際協力:各国の所轄官庁間の協力、権利行使を改善するための技術支援の提供、統計データや成功事例などの関連情報の共有を、プライバシーや機密情報を保護するための国際ルールや関連する国内法に従って行う必要性を認識するための章になる可能性が高い。
2009年以降も「秘密主義」のもと交渉がなされていったというわけです。

こうした動きに対して警鐘を鳴らしてきた方もいらっしゃるのですが、先日の著作権法改正のような改悪が「いきなり出てくる」という感じがしますよね、どうしても。

山田奨治 BLOG - ACTAについて本に書いたことを転載

第6章 著作権秩序はどう構築されるべきか
「秘密主義へ」の節より抜粋
この文章を執筆している二〇一一年四月時点で進行中のことに、日本が主導する「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)(補注・現在の名称は「偽造品の取引の防止に関する協定」)締結に向けた動きがある。この条約はもともと、「知的財産推進計画二〇〇五」に書かれ、当時の小泉首相が〇五年のグレンイーグルス・サミットで提唱したものだ。ACTA締結に向けた集中的な協議を開始することが、〇七年一〇月に経済産業省からアナウンスされたものの、その後の協議は徹底的な秘密主義のもとに置かれた。国民生活に深く関係する条約なのに、外交機密の名のもと、国民の誰にもその内容を知らせないようにしながら交渉が進められたのだ。

7月に「欧州議会がACTAを否決した」わけですが、その後も日本では周知もされず、政局の話、そしてオリンピックばかり。

私には伝達するぐらいしかできないんで、情報学者山田氏のブログ読んでください。

山田奨治 BLOG - 日本ではわからないACTA:欧州各国での抗議デモについて
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-527.html

山田奨治 BLOG - ACTAに対するEUの懸念とは
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-556.html

山田奨治 BLOG - ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)はホントの所、何が問題なのか
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-569.html
ACTAでは何が語られていないかを、3点述べておきたい。
第1に、ACTAでは文化が語られていない。
第2に、ACTAでは人権が語られていない。
第3に、「表現の自由」以外の自由が語られていない。

山田奨治 BLOG - ACTA:参議院外交防衛委員会ダイジェスト

山田奨治 BLOG - ACTAノート
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-577.html

あ、それから最初に言っておくが、ACTAに書かれてあることのうち、これが合意された時点で日本で明らかに実現していなかったのは、第27条5項のリッピング規制の部分だけで、これについては不正競争防止法と著作権法を改正して対応済み。つまり、ACTAにある規制は日本の国内法では、だいたいすでにそうなっているということ。EUの市民がACTAは危険だといっているが、それは日本の社会はすでに危なくなっていますよと忠告されていると思えばいい

第27条5項ってこういう内容です。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ipr/pdfs/acta1105_jp.pdf

第二十七条デジタル環境における執行
5 各締約国は、著作者、実演家又はレコード製作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物、実演及びレコードについて実行されることを抑制するための効果的な技術的手段(注)であって、著作物、実演及びレコードに係る権利の行使に関連してその著作者、実演家又はレコード製作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。
注 この条の規定の適用上、「技術的手段」とは、一の締約国の法令に従って設計された技術、装置又は構成品であって、その通常の機能において、著作者、実演家又はレコード製作者によって許諾されていない行為がその著作物、実演又はレコードについて実行されることを防止し、又は抑制するよう設計されているものをいう。締約国の法令に定める著作権又は関連する権利の範囲に影響を及ぼすことなく、技術的手段は、著作者、実演家又はレコード製作者が、暗号、スクランブリングその他の関連するアクセス・コントロール若しくは保護のための加工又はコピー・コントロールの手法であって、保護の目的を達成するものを適することにより、保護の対象となる著作物、実演又はレコードの使用を管理する場合に効果的とみなされる。


山田氏のブログから引用した通り、日本では6月に「著作権法改正」でDVDリッピングの違法化(ACTAに沿った内容ってことですね)、違法ファイルのダウンロードに対する刑罰化(これは自民党と公明党が「突然」出してきたもの。消費増税国会との取引材料になったもの)が10月からの施行を待つだけ。


山田奨治 BLOG - 違法ダウンロード刑罰化とACTA:彼我の差を考える
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-571.html
日本での違法ダウンロード刑罰化と、EUでの「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)批准案否決という、おりしも同時期に進みながら、対照的な結果になったふたつのことを比較してみたい。

著作権法改正 -「お持ち帰りCD」記事で思うメディア評論家の鈍感さでも書きましたが、こういう規制に対してものすごく鈍感になっている自分にぞっとします。

国民の声は無視した形での「三党合意」。(国民が合意したわけじゃないんですけどね。錦の御旗のように「三党合意したから」と言われても・・・)
総理大臣の「政治生命」を担保にしたなりふり構わぬ判断。(大飯原発再稼働、消費増税法案衆院通過・・・)
報じないというマスコミの選択。(著作権法改正時もあっさり。消費増税法案が具体的にどういう内容なのかを報じず、党内勢力とかそんな話ばっかり。大規模なデモも取り上げない方針でしたしね)

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